HONDA Trail CT110(型式CT110B) 1981年型のセミレストア物語 Vol.03
CT250シルクロードとともに「トレッキングバイク」カテゴリーを担うモデルとして国内販売されたのがCT110だった。プチレストアとお化粧直し、気兼ねなく走れるようにしてほしいとバイク仲間から依頼されたが、想像以上に悪い箇所が多く、ビシッと走らせるには本格的な作業が必要なようだ……… 分解したら曲がっていたフロントフォークのインナーチューブを再生依頼した。
エンジンも足周りも粘土質のドロドロ、ドロ!!
エンジンのクランクケース裏と同様に、フロントフォークのコンディションも良くないと言うよりも酷い状態だった。早速分解して各部を点検しようと思う。フォークブーツを抜き取ると、その内側は大量てんこ盛りの粘度質のドロだらけで、インナーチューブはサビでひどい状態だった。
偏摩耗の原因は、インナーチューブの曲がりにあり
分解したインナーチューブは並べて寄せてみるまでも無く完全に曲がっていた。その影響でボトムケースの一部と強く擦れてしまい、ハードクロームメッキの一部は完全に摩耗剥離状態だった。曲がったインナーチューブに起こるあるある現象だ。純正新品部品はまだ買えるが、敢えて高品質な(純正部品よりも)、再ハードクロームメッキで東洋硬化さんへ仕上げ依頼した。この程度の曲がりなら、スムーズに復元できるはず。旧車や小径サイズのインナーチューブは、ある程度の肉厚を確保しているため、曲げ戻しやすい特性なのだ。
国内屈指のインナーチューブ再生コンストラクター
過去に何度もお願いしている東洋硬化さんには、絶大なる信頼を寄せている。曲がっていてもサビが深くても、肉厚のある旧車系インナーチューブなら、修正芯出しは比較的容易。転倒程度の曲がりなら良いが、事故で突っ込んでしまったような「くの字」インナーチューブは、曲げ戻しによって金属疲労が一気に進むので修理再生は避けた方が良い。ザックリとした作業工程は、曲げ修正→円筒研磨→ニッケルメッキ→硬質クロームメッキ→円筒研磨の順で仕上げられる。
取材協力/東洋硬化 www.toyokoka.com
精度管理も万全体制で納品
作業依頼前のビフォーと作業完了後のアフターで、寸法精度管理を行っている。そんな検査工程の管理表も同梱納品されるので安心だ。チューニングやカスタムユーザー向けには、チタンコーティングなどとも呼ばれるイオンプレーティング処理もオーダーできる。ワークスマシンのフロントフォークと同等の表面硬度と滑性を得られる。
- スーパーカブ×メンテの世界・ハンターカブT125の登場によって、それまで以上に注目される存在となっているのが歴代シリーズモデル。メンテナンス中の車両は、唯一、国内販売されたCT110の初期型(型式CT110B)。里帰りモデルの多くは副変速機付きだが、国内仕様はシンプルな副変速機無しの標準仕様だ。横型のベースエンジンはスーパーカブC90系だが、独自の進化を遂げているのがCT110系と言える。
バイク仲間からのお願いを二つ返事で受けてしまったが、目の前にある現車を見た時に、これは大変になりそうだと直感したのがこのCT110国内モデルだった。「出たとこ勝負で進めましょう」とマシンオーナーさんとお話しして、早速、車体の分解に取り掛かった。仮に、エンジンも車体も機能面では問題なく、単純に薄汚れているだけのバイクなら、分解バラバラにしてから各パーツ単位で磨き上げ、汚れを落としたボルトを使って組み立て復元すれば、現状最善でバイクは仕上げることができる。
ところが、車体もエンジンもコンディションは今ひとつ……。降ろしたエンジンを逆さまにして、クランクケースを裏側から見ると、アルミ部品と言うよりもドロの塊で、しかもそのドロは粘土質で、なかなか洗い落とすことができなかった。おそらく田んぼの中や畦道を走っていたのだろう。そんなコンディションは車体にも共通していて、滑って転んだのだと思うが、フロントフォークのインナーチューフは薄っすら曲がっている様子だった。ひと目でわかるほど曲がっていないので、田んぼの畦道でスッテンコロリンを何度も繰り返していたのでは……と思われた。
車体を分解した後に、フロントフォークをさらに細かく分解しようとしたら、案の定、フォークブーツの中には湿ったドロが満載だった。インナーチューブを抜き取ると、左右2本とも楕円型にメッキが剥離している箇所が……この症状は、曲がったインナーチューブが部分的にアウターチューブと強く擦られ、それによって硬質クロームメッキが摩耗しているのだ。抜き取った2本のインナーチューブを寄せると、曲がっていなければピタッと寄り添うインナーチューブが、場所によっては真ん中が付かないO脚になり、逆に、両端どちらかを寄せると、反対側に隙間ができる、完全なる曲がりインナーチューブだった。それでも隙間としては最大で3ミリ程度だったので、修復は可能な範囲と判断した。
特に、旧車や小排気量モデルはインナーチューブが肉厚設計なので、この程度の曲がりや歪みなら修正可能だ。一方、正立フォークでも高年式モデルや倒立式フロントフォークのインナーチューブは、肉厚が薄い設計のため(軽量化も影響している)、曲げ戻し修正によってチューブにシワが寄ってしまい、再生不可能なケースもあるので、すべての曲がり修正が可能ではないことも知っておこう。
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